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東京高等裁判所 昭和52年(行コ)43号 判決 1978年5月30日

控訴人 山口好雄

被控訴人 浅草税務署長

訴訟代理人 島村芳見 鳥居康弘 ほか三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。本件を東京地方裁判所に差し戻す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、控訴人において、「仮に、本件異議決定書謄本が昭和四二年四月一五日控訴人方に送達されたものと認められたとしても、これにより審査請求期間が進行するものではない。旧国税通則法七九条三項にいう「決定の通知を受けた日」とは文書の送達があつた日とは異なり、送達を受けた者が文書の内容を知ることができず、したがつてこれに対する判断を下し、一定の措置をとることができないような状態にあるときは、右の決定の通知を受けたものということはできない。控訴人は、昭和四二年四月一五日の朝、急性ヴイールス性肝炎、化膿性扁桃腺炎、慢性実質性腎炎により突然高熱を発して意識朦朧状態に陥り自宅に病臥し、このような状態が同年五月一六日まで継続し、この間控訴人は送達された決定書の内容を知りうる状態にはなかつたものであつて、控訴人は意識が回復した右五月一六日妻から決定書を見せられてはじめてその送達があつたことを知つたものであるから、右同日をもつて決定の通知を受けた日というべきである。」と述べ、<証拠省略>を認め、被控訴人において、控訴人の前記主張を争い、<証拠省略>を提出したほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  当裁判所は、次につけ加えるほか、原判決と同じ理由で、控訴人の本件訴えは適法な審査請求についての裁決を経ていない不適法なものであるからこれを却下すべきものと判断するので、ここに原判決の理由を引用する。

(1)  <省略>

(2)  控訴人は、本件異議決定書はその送達の日には控訴人においてこれが内容を知りえない状態にあり昭和四二年五月一六日妻から見せられてはじめてその送達のあつたことを知つたから審査請求期間もこのときから進行する旨主張するところ、旧国税通則法七九条三項にいう「通知を受けた」とは、通知が社会通念上了知できる客観的状態に置かれることをいい、同法一二条一項によると、国税に関する法律の規定に基づいて税務署長が発する書類は、郵便による送達又は交付送達により、その送達を受けるべき者の住所又は居所に送達するものとされ、本件異議決定書は郵便による送達の方法で送達されたものであつて、このように郵便による場合には、郵便物が名宛入の住所等に配達されることによつて右の「通知を受けた」ものとされ、名宛入が一身上の都合によりたまたま現実に送達書類を了知しなかつたとしても通知受領の効果を否定することはできないものというべく、また当該書類の送達は受送達者が現実に直接その書類を受領し了知することを要するものでなく、その内容を了知することができる状態に置けば足りるものと解すべきであるから、受送達者本人ではなく、本人の同居者、使用人その他千手堂と一定の関係があつて、その者が送達書類を受領すれば遅滞なく受送達者本人に到達させることを期待できる者が受領することによつて送達が完成するものというべきところ、木件異議決定書謄本が昭和四二年四月一五日簡易書留郵便によつて控訴人の住所に配達されたことは前示認定のとおりであり、また、同居の親族がこれを受領していることは弁論の全趣旨によつて明らかであるから、これらは仕会通念上現実に了知しうべき客観的状態を生じているものというべきであつて、たまたま控訴人本人がその内容を了知することができなつたとしても、右日時に本件異議決定の通知を受けたものと解すべく、したがつてこのときから審査請求期間が進行するものというべきであるから、控訴人の主張は理由がない。

二  したがつて、本件訴えを却下した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて、本件控訴を棄却し、控訴費用は敗訴の当事者である控訴人に負担させることとして、主文のように判決する。

(裁判官 舘忠彦 高林克己 小瀬保郎)

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